2013年12月22日日曜日

「メッセンジャーを射る」

一週間の有給休暇もあっという間に終わり、昨日は土曜当番で出勤。
朝の9時。がらんとした編集室で席につくなり電話が鳴った。
 
取り上げると、相手は30台位の女性の声で、「ある記事を取り下げてもらいたいのだけれど!」とちょっと興奮気味。
「今日の新聞に載っている『グリンチ特集』のお蔭で、娘がいじめられている!」
 
グリンチというのは、クリスマスが近づくと読まれるアメリカで有名な子供の本の意地悪主人公の名前。町の皆がクリスマスを楽しんでいることを嫌がり、プレゼントやツリーを盗みまくる。でも、町人はそれでも仲良くクリスマスのお祝いをしていて、グリンチはクリスマスの本当の意味をついに理解して反省し、めでたし、めでたし、という筋書きだ。アメリカ人は会話で、人の楽しみを台無しにするような盗みや悪さをする者のことを「グリンチ」と呼ぶ。
 
朝刊を開けてみると、4ページ目の片隅に「宅配便グリンチ容疑者捕まる」という小さな見出しが。ボストン近郊のビレリカという町で、配達された荷物がマンションの廊下(郵便箱などがある入口付近)から盗まれたらしい。警察によると、被害者は二人。通報で調べたところ、盗難品はインターネットで再販されていたことが発覚。警官がその商品を買うふりをして容疑者の売り主と会い逮捕したとのことだ。
 
新聞社に電話してきたのは、その容疑者本人。記事に彼女の名前が載ったせいで、子供がいじめを受け始めたと訴える。「特集」ではなく、内面に埋め込まれた小さな記事だが、「センセーショナル化している。容疑者の子供のことを考えないのか!」と怒っていた。

私は、「氏名は、警察が公開したら載せますよ。公開してほしくなかったら、警察に話すのが一番ですね。」と言った。彼女は怒ったまま電話を切った。
 
記者をしていると、事件や記事に引用されている他人の意見に動揺して、それを報道した記者や新聞社を責める苦情を良く受ける。英語ではそういう行動を、「メッセンジャーを射る」(悪い便りを受けて、便りを届けた者に怒りを向けるという意味)と言う。 また、アグレッシブ(図々しくて攻撃的)なやりとりにも慣れてはいるが、容疑者本人から「よくも!」と言われると、これはレベルが違うと関心する。彼女が有罪か無罪かはわからない。ただ、警察沙汰に巻き込まれている間は波風立たない生活をしようとするだろうと思うのだが、人に寄って反応が違うようだ。自分が苦しいから、他に射る対象を探すということか。
 
それにしても、盗まれた箱には何が入っていたのだろう。

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