2014年1月29日水曜日

自治体が見張るゴミ箱事情






アメリカでゴミ箱のハイテク化が進んでいる。
 
自治体から各家庭に配給されるカート(車輪付のゴミ箱)は一見ごく普通のプラスチック製だが、実は外から見えにくい場所にマイクロチップがはめ込んである。
 
マイクロチップの使い道は自治体によっていろいろ。ゴミの重量を自動的に測って、住民から「ゴミ捨て料」を徴収する市もあれば、リサイクリング物を定期的に出しているかチェックする町もある。だが、チップを使う動機はどこも基本的には同じ。再資源化が不可能なゴミを減らし、一般ゴミの処理費を節約したいということらしい。(余談になるが、アメリカでは「燃えるゴミ」、「燃えないゴミ」という分別はない。というのは、ゴミの処理は焼却よりも埋め立ての方が普通だからだ。)
 

私が住むローエル市でも、今年からマイクロチップ入りのゴミ箱が導入された。ボストン北部では初めてだという。
 
これは、リサイクリング物収集用の箱。勝手口や裏庭に置いておき、回収日に歩道までガラガラと引いて行って出すものだ。容積96ガロン(363リットル)と巨大なのは、回収を二週間に一回に限って、収集トラックの燃料費と運転による温室ガス排気を制限するためだという。これだけ大きな箱なら、家族が大きくてリサイクル物の量が多くても二週間はもつだろうというわけだ。
 
このマイクロチップの正式な名称は、Radio Frequency Identification (RFID) System。市のリサイクリング部では、箱を配布する前に、各ゴミ箱にそれぞれの番号を割り当て、配布先の住所と一緒に登録している。言ってみるなら、ペットに埋め込むマイクロチップと同じようなもので、ゴミ箱をスキャンすると、その箱が誰に所属するかわかる。
 
回収トラックには運転席からコントロール出来る金属製の「腕」がついていて、歩道に置いてあるゴミ箱を自動的に持ち上げる。中身をトラックのコンテナーに空けて、歩道に置きなおす。その過程で、マイクロチップが読み取られ、どのゴミ箱が回収されたのかわかるようになっている。また、このマイクロチップはGPSでもあるので、回収された場所も同時に読み取られる。
 

市のコンピュータと回収トラックの運転席に設置してあるコンピュータが繋がっており、市の職員は回収データを簡単に見れるようになっている。このシステムの魅力は、「過去2か月一度も回収されていないゴミ箱はどれか」とか、「過去3か月ゴミ箱を歩道から離れた場所(裏庭など)に放置してある家はどこか」といった情報をあっという間に分析出来ることだそうだ。市のリサイクリング部のマネージャーは、再資源化可能なゴミを出さない家庭に直接連絡して訳を聞き、リサイクリングを奨励したいと言っている。リサイクリングをすればするほど一般ゴミの量が減り、埋め立て費用も節約できるという考え方が根底にある。

勿論、このように各住民のゴミ捨て習慣を分析するのはプライバシーの侵害だという意見もある。三年前に一般ゴミ用にマイクロチップを導入した英国ロンドンでは、住民からの反発が強かった模様だ。ローエル市では反論はまだない。自分としてはゴミを減らすことには賛成だが、家の敷地内に市のコンピュータと繋がったものがあるというのは、気分的にはなんとなく見張られているような感じが否めない。
 

ローエル市の場合には、行方の分からなくなったゴミ箱の居所を見つけるのもマイクロチップ導入の動機のひとつだという。一般ゴミの回収には別の箱が使われているが(これはマイクロチップ無し)、箱に入りきれない分は料金を払って捨てなくてはいけないため、他人のカートを盗む人が後をたたないのだそうだ。盗むのは一般の住人ではなく、アパートの大家が殆どという。テナントの出したゴミの処理費は大家持ちのケースが多く、どうやらその費用をケチりたいらしい。中には、市内の自宅からわざわざトラックで毎週市配給の一般ゴミ箱をアパートまで持って行く大家もいるという。住む区域によって回収日が違うので、自宅の箱の回収が終わった後アパートに持っていけば、同じ箱を二度使えるというわけだ。
 
新しいリサイクリングのゴミ箱だと、そう上手くはいかない。
「過去2か月間、回収地がかけ離れていたゴミ箱をどれか」といったデータ分析もおちゃのこだ、とマネージャーは新しいシステムに期待を寄せて入る。

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2014年1月16日木曜日

食を育てる「種図書館」





あと数週間すると、野菜や花の種のセールや、育て方の講習会などがあちこちで始まる。
気の早い話に聞こえるかも知れないが、地面が凍っているうちに苗育ちの準備を整えておこうという人は結構いる。雪積もるマサチューセッツにいると、その心意気に春の兆しを覚えてこっちまで嬉しくなる。
 
最近、こうした農園芸に興味のある人を惹きつけているのが、全国各地の図書館で広まっている「種の貸し出し」サービス。人参からトマトからズッキーニまで、様々な種類の野菜の種が無料で手に入る。ただ、これはあくまで「貸出し」。利用者は種を自宅に持って帰って野菜を育て、収穫後に種をとって保存する。それを図書館に持ち帰って「返却」するわけだ。
  
種の収穫というと難しそうに聞こえて怖気づく人もいるかもしれない。しかし、司書たちに言わせると心配無用。図書館では「種の取り方講座」を通年何回も開き、素人でもわかるように丁寧な指導をしているとのことだ。
 
先日、図書館のサービス多角化について書いたが、種貸し出しはそのひとつ。2010年にカリフォルニア州リッチモンド市の公立図書館で始まって以来、アイデアが各州あちこちの図書館に飛び火してきた。もともとの動機は、遺伝子組み換えをしていない種を守ること。大量生産のせいでスーパーに出回っている野菜は決まった品種に限られており、昔ながらの品種が消え失せてしまうのではないかという懸念が広がっている。このため、「シード(種)図書館」は店頭ではなかなか見かけない品種の種ばかりだ。
 
環境問題や食品に関する意識が高まる中、生鮮食料品はなるべく地元でとられたものを購入し、出来れば自分でも育ててみようという運動も高まっている。図書館はその社会的傾向に素早く反応し、生活に役立つサービスを提供しようとしているのだ。
 

図書目録がオンライン化されてから二十数年。倉庫に置きっぱなしになっていた目録カードケースを利用して種を提供しているのも、魅力のひとつだ。引き出しを開けるとインデックス・カードのかわりに種の入った小さな封筒がぎっしりと詰まっている。


 

マサチューセッツ州で最初に種貸し出しに乗り出したのは、ボストン郊外の小説『三人姉妹』の舞台で有名なコンコードという町の図書館。それは約一年前だったが、その後あっという間に近郊のグロトンという町から隣接したリトルトン町へと広がった。
 
一昔前は読みたい本を見つけるためには欠かせなかった目録カードケース。今、引き出しの中に新しい「わくわく」が詰まっている。




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2014年1月13日月曜日

本の消えゆく図書館



図書館から本が消えて行く。
 
そんな時代を想定した図書館作りが、アメリカで拡まっている。


子供の頃は、図書館と言えばぎっしり並んだ本棚の間に身を埋めながら背表紙の分類番号を辿って本を探す場所。読みたいが一心に重たさも忘れて本を家に抱えて帰ったものだ。最近は、こうした光景は減りつつある。というのも、図書館利用者の多くがタブレットやスマホを使って電子書籍を「借り」ているからだ。
 
段取りは極めて簡単。地元の図書館のウェブサイトから貸出アプリを端末にダウンロードし、図書館使用者番号などを使ってログインするのがボストン郊外では一般的だ。読みたい本を検索したら、クリック。数十秒で本が端末に届く。空港で本を買う代わりに、ロビーに座りながらタブレットで自分の町の図書館から貸出する人や、バケーション先からダウンロードする利用者もいるらしい。
 
しかも、返却期限が来ると、本が自動的に端末から消える仕組みになっている。遅延ペナルティーの心配は全くないわけだ。

勿論、出版社は本の廻し読みをされると収益にならないため、図書館に電子書籍を売ることを毛嫌う。そのため、図書館で手に入る電子書籍のリストに限りはあるが、それでも近年選択の幅がかなり拡がってきた。 
 

アメリカの図書館は手に取って見れる本にあまり固執していない。
「新聞や本は、やっぱり指でめくる物。紙の匂いがしないと読んだ気がしない」と嘆く者も少なくないが、そういう人ですら電子ブックリーダーは持っている。図書館の司書は、これを時代の変化として受け入れており、グロトンという町の図書館では、支援者から募った助成金を使って購入したキンドルやヌック(アメリカで人気のある電子ブックリーダー)そのものを住民に貸し出して、「お試し体験」を推奨したりもしている。


アメリカの図書館の時代への適応性は今に始まったことではない。図書館は、そもそも「知識の共有と普及」のために存在する場所。グロトン公立共図書館の入り口に刻み込んである「Open to All 」という言葉は、正に図書館の起源となる概念だそうだ。


 
図書館は、「物を借りて返す場所」でもある。グロトン図書館のテクノロジーサービス司書によると、農家の多いマサチューセッツ州西部では、昔は図書館を通しての農具の貸し出しもあったそうだ。
(実は最近、野菜自家栽培のブームに応えて、種の「貸出」をする「シード(種)図書館」を館内に設けている図書館が近辺に現れ始めた。この話は、また後日紹介する。)
 
何の貸し出しが求められるか、また、どうやって知識を普及するか、利用者のニーズは時代によって変わるというわけだ。多くの図書館が音楽CDや映画DVDの貸し出しを永年してきたのも、このためだという。近年では、図書館を通してiPodなどに直接音楽をダウンロードすることも出来る。同じ理由で、アメリカはほぼどこの図書館でもWifiがある。今やインターネットなしで、知識の普及は成り立たないということだ。


 

いくつか本棚を取り払ってコンピュータを設置する図書館も少なくない。インターネットが調査に欠かせないというだけではなく、不況でレイオフされた労働者が家庭でインターネットをひく費用を節約せざるを得ず、図書館に来て履歴書をタイプしたりネットの求人案内を調べたりすることが多いからだ。「上手な履歴書の書き方」といった無料講座を専門家を招いて開く図書館も数多くある。

こうした理由のため、本がなくなったら図書館の必要性がなくなる、という懸念はないらしい。図書館の「出会い」の場所としての役割もますます求められていると、司書らは語る。小銭を残して自分でコーヒーをつぐ、カフェ・コーナーを設けている図書館も多い。


時代が変われば、図書館も変わる。未来を読み取る第一歩は、図書館に足を運んでみることかもしれない。



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2014年1月7日火曜日

アメリカ流の太陽光発電奨励策。でも、やっぱりバブルはつきもの。



日本で「太陽光バブル」が起きているらしい。
 
日経新聞2013年12月23日(水)掲載の記事によると、電力会社が政府の再生可能エネルギーの普及促進策のもと太陽光電力を買い取る固定価格は1kwh あたり値段は40円。一般家庭が電力会社に払う値段の約2倍だ。このため、パネル設置や土地購入へ投資しても儲かる。それで、太陽光利権の転売や、パネル設置に向いた土地の値段暴騰が起きるという訳だ。
 
これは、ヨーロッパで実験済みの太陽光発電促進策。やはりバブルが起きて、途中からうまく行かなくなったらしい。その二の舞を避けようと、アメリカはヨーロッパや日本とは異なった太陽光発電推進策をとってきた。しかし、それはそれでの問題がいろいろと持ち上がっている。
 
アメリカの推進策はクレジット制度。詳細は州によって異なるが、骨組はどこも似ている。(奨励策をとっていない州もある。)
 
クレジットは、一般市場で売れる債権や株のようなもの。正式には、太陽光熱再生可能エネルギークレジット (Solar Renewable Energy Credit 、または、SREC) という。マサチューセッツ州を例にとると、発電量が1,000kwh に達する度に州政府がパネルの所有者にSREC をひとつ発行する。
 
一方、州は電力会社にある一定の割合の電力を太陽光熱で賄うことを義務付けている。電力会社は自らの力だけでその割合を満たすのは困難だが、足りない分はSREC を買って補うことが許されている。
そこで、SREC を受け取ったパネル所有者が、それを必要とする電力会社に一般市場を通して売るわけだ。需要と供給の割合によって、SREC の値段も上がったり下がったり。うまく売ると高い収益になる。
 
また、州の仲介売買も定期的にある。州が売買を斡旋する場合には、最低価格が固定されている。買い手も売り手も各自なりの相場の読みがあり、一般市場で取引するか州斡旋を待つか決めるわけだ。
マサチューセッツ州がSREC を導入したのは、2010年。希少品のSREC は州仲介市場の最低価格が600ドルに設置されていた。パネル設置数が増えれば、出回っているクレジットの数も増えて価格も下がる。それにつれて、州が推進する必要性も低くなるという訳で、最低価格も年ごとに徐々に引き下げられる仕組みになっている。
 
2011年半ばの時点ではSREC の相場は570ドル程。田舎の空き地で太陽光発電所の建設が盛んになり始めた。ちょっとした家庭用パネルでも、年間数千ドルの収入になるし、出力1MW以上のミニ発電所になるとSREC はあっという間に積もり積もる。


 
SREC は土地や建物の所有者ではなく、パネルの所有者に発行されるので、電力を安く売る条件で家庭の屋根を借りてパネルを取り付ける会社も増え始めた。
 
問題が起きたのは2012年の秋。推進策が州政府の予想を大幅に上回る成功を納め、州内に設置されたパネルの合計出力は知事の2017年の目標であった250MWに早くも達しそうな勢いで伸び初めていた。それにつれ、市場に出回る債権数が激増。SREC の価格暴落が始まった。2013年の4月にはSREC ひとつあたり180ドルまで下落。ここまで下がると、州が設定した最低価格で売るのも不可能だ。
 
ローンを借りてパネルを設置した住民も、発電所の建設したディベロッパーも、SREC はひとつ500ドル前後で売れることを想定していた。あてにしていた収益が泡のように消え、借金の返済が伸びてしまったと嘆く人々。しかも、2013年半ばには、250MWどころか、「ここまで太陽光発電が増えたらSREC 制度を打ち切る」と州政府が宣言していた400MWに到達。まだ建設中の発電所はSREC をもらないのでは、というパニック感が業界に広まった。
 
また、先の見通しが立たないため、ディベロッパーは新たな太陽光発電所建築用に目を付けている土地があるにもかかわらず投資家に話を持っていけない状態に陥っている。
 
州は目標出力数を1,600MWまで引き上げたものの、現存していたSREC 制度は400MWで約束通り打ち切り。それをどう改善して次の政策に繋げるか未だに検討中だ。
 
州のエネルギー資源庁は、政策を調整することによって更に太陽光発電を増やせるはずと強気だ。しかし、他の州の例を見ると、クレジット政策を長期間うまく維持するのは容易ではないことがわかる。例えば、ニュージャージー州。2009年の8月に700ドルで売買されていたクレジットは、2011年の12月には225ドルまで暴落していた。ペンシルベニア州では2009年の11月に300ドルだったクレジットが、去年の5月にはたったの13ドル。
 
マサチューセッツ州では先月には235ドルまでより戻したが、それでも州の最低価格である285ドルを大幅に下回る。
 
アメリカで太陽光発電に絡んだ土地ころがしは聞かない。
 
しかし、政府の推進策には、バブルが何かしらの形でつきもの。再生可能エネルギーが市場で独り立ちできる日は、いつやって来るのだろうか。



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