2013年12月19日木曜日

省エネが嫌いだったアメリカ人。今そのツケが。

   

ボストン近郊では氷点下の日々が続いている。 

一昨日ハーバード大学の傍を運転していたら、ボストンから郊外に向けて流れるチャールズ河の川面が凍てついてキラキラ輝いていた。
 
雪をかぶった河沿いの木立。その陰に並ぶレンガ造りの校舎や寮。煙突から湯気が上る建物も珍しくない。絵葉書からとったような街並みは、アメリカのエネルギー事情を考えさせられる風景でもある。
 
というのも、アメリカは古い建物が多い。何十年、もしくは何百年も経った熱効率の低い建築物を省エネビルに変身させる改築工事が密かなブームになっている。企業や自治体政府に加わりこのトレンドを率先しているのは大学。ハーバードではキャンパスの隅から隅まで熱効率を測り、50年ほど前に建てられたビルにも資金をつぎ込んで改善している。私が住んでいるローエル市にある州立大学でも省エネに力をいれているが、これはコスト制限のためだけではない。地球温暖化対策をとることによってイメージが良くなり、出願率が上がるのだそうだ。
 
住宅でも、省エネ改造をするための援助金が電力会社から出たり、低利子ローンをもらえたりする。太陽電池や熱効率抜群の暖房器や給湯器の設置をすると確定申告で税金ががっぽり戻ってくるという奨励策もある。
 
しかし、これだけ古い建物が街並みを埋め尽くしているのを見ると、こうした変化は一夜にして起こらないという事を実感する。とりわけ一般住宅は省エネ改造は容易くない。
   
アメリカでは一戸建て住宅でもビルでも一度建てたら崩れそうになるまで使うので、ボストン界隈の不動産も中古が殆どだ。一世紀くらい経っている家はざら。
 
余談になるが、アメリカ人は永年なじみのある建物に固執する傾向もある。旧式のちょっとメルヘンチックな外見の消防署を建て直すなどと言おうものなら、住民が暴動ならぬほどの勢いで反発する。十年以上前に取材していたニューハンプシャー州南部の市では、シティーマネージャー(市長に代わって市政をつかさどるトップの役人)が閉鎖予定の消防署を売りたいが、「何があっても壊すことは出来ない。」と言っていたのもこのためだ。
 
という訳で、アメリカは熱効率の良い新築は稀な存在だ。
 
古い家は壁の断熱材なし。南向きの窓は数少なし。日当たりを考慮して設計した形跡すらない。
何故かというと、米国では20世紀以前から燃料は豊富で値段も安く、暖房費がかからない様に工夫しようという発想すら起こらなかったという。1970年代のオイルショックはあったものの、喉元の熱さはあっという間に過ぎ去ったらしい。1990年代初頭でも、石油はまだ1ガロン(=3.8リットル)99セント、自動車天国であった。(因みに、現在は1ガロン3.5ドル程度。高くなったとは言え、日本とは比べものにならない。)
 
アメリカの家には地下室がつきものだが、そこに大抵あるのが大型給湯器と暖房器。瞬間湯沸かし器はあまり普及しておらず、お湯はバーナー付きのタンク(高さ150センチくらいの円筒タンクが一般的)に水をため、内部に付いているバーナーで一日中徐々に温めて置いておくやり方だ。設定してある温度に保つため、バーナーは留守中でも点火したり消えたりの繰り返し。うっかり水道の蛇口を閉め忘れたりするとタンクのお湯が全て流れだし、6~7時間待たないとお湯が使えないというみじめな思いをするのでご用心。(アパートとかだと、一人ヘマをするとタンクを共有しているお隣さんにまで迷惑がかかる。)
 
暖房器も大型のものが地下にあり、ガスや石油で温めた空気をダクトを使って家中に温風を吹きこんだり、温水やスチームを作って上階に管を通して流し込むなど、方法がいくつかある。
煙突から湯気がたっている建物があるのは、暖房器や給湯器の排気口がもともと暖炉用に使われていた煙突につながっていることが多いからだ。
 
いくら奨励策があると言っても、これだけエネルギー消耗を前提に建てられた家屋を省エネ建築にするのはやはりお金がかかる。改造への投資は、やはり経済が復興するまで本格化しないのが現状であろう。


***********


Copyright © 2013 ボストン・マインドに掲載されている記事、写真、動画等の無断転載と使用を禁じます。
Copyright © 2013 ボストン・マインドand 佐藤広子. Unauthorized use and/or duplication of this material without express and written permission from this blog’s author and/or owner is strictly prohibited. Excerpts and links may be used, provided that full and clear credit is given to 佐藤広子 and ボストン・マインド(The Boston Mind) with appropriate and specific direction to the original content.

0 件のコメント:

コメントを投稿