2014年3月4日火曜日

街にマリワナ薬局がやって来る。


ひっそりした工業地帯に佇むこの建物に、医療マリワナの薬局が設置されるという。


ハイウェイから見えるビジネス・ホテルの裏に、隠れるように佇む空き工場。
地元の人でも滅多に足を運ばない工業地帯にある建物の一角に、医療マリワナ専門の薬局が近々開店するという。
 
これは、今年に入って医療マリワナ栽培・販売の仮許可が下りた薬局20社のひとつ。マサチューセッツ州では初めての試みだ。ボストン郊外北部でマリワナ薬局が開く予定のコミュニティーは数か所に限られているが、私が住むローエル市はそのうちのひとつである。
 
医療マリワナというのは、医者が処方箋を書いて出すマリワナのこと。大麻というと麻薬のようなイメージが強いが、マリワナには依存症に陥ったり過量投与で死に至る危険がない面で、覚せい剤とは根本的に異なるそうだ。
 
大麻のアメリカでの俗称は、「ポット」、または「ウィード」。タバコのように火をつけて吸引すると頭がくらくらしたり妄想がおきたりするというが、その原因になる成分は上手に使うと、合成薬品では処置できないようなひどい痙攣発作や癌科学療法から起きる吐き気の抑制など、優れた薬理作用があるという。そのため近年、今まで交通事故の原因や労働意欲の妨げになると悪者扱いされてきたマリワナを見直して、重病患者の苦しみを和らげるための医療マリワナを合法化しようという動きが全米で拡がっているのだ。
 
マサチューセッツ州は、2012年11月に州選挙で過半数の住民が医療マリワナの合法化に賛成。全国で19番目の薬用マリワナ認可州(ワシントンDCも含めて)となった。隣接するニューハンプシャー州も、去年合法化された。 一般的に処方箋がもらえるのは、癌、エイズ、癲癇、諸々の神経性の病、緑内障、等の病気を持つ患者。病状、重度など考慮されるので、ケースバイケースだ。
薬用マリワナは吸引用の巻きたばこのようなものもあれば、マリワナを混ぜて焼いたクッキーやブラウニーなどのスナックもある。ローエル市で開く薬局では、マリワナのエキスを融合した調理用オイルも販売する予定だという。
 
勿論、薬用といえども今まで犯罪とみなされてきたマリワナの流通の合法化に反発する声はある。マリワナは覚せい剤使用の道への第一歩と唱える人々。また、マリワナの薬理効果は科学的に証明されていないと、ガンとしてマリワナ処方を拒む医師も沢山いる。問題なのは、薬理効果の証明はこれまでやろうにも出来なかったこと。これだけ多くの州が合法化している今でも、連邦政府はマリワナは薬用でも娯楽用でも違法となっている。そのため、国から援助金をもらっている大学などでは、マリワナの研究は一切手をつけられない。処方箋マリワナ認可の運動は、合法化される前に潜りで使っていた患者の体験によって効果が口コミで拡がったのが基だったようだ。
 
しかし、覚醒剤や強力な鎮痛剤を麻薬の代わりに誤用する者が後を絶たないアメリカでは、マリワナを全て違法にしておくと、逆に闇市場での値段を釣り上げて犯罪や暴力団体の資金集めに繋がると言った意見もある。
 
マサチューセッツ州では、マリワナ薬局は自給自足が法則的に義務付けられている。栽培は屋外だと盗難や種の拡散防止が難しいためか、室内でしか認められない。 店頭の裏に栽培室を設ける会社もあれば、田舎で栽培したものを販売店まで運送するケースも多々ある。私が住むローエル市の薬局の場合は後者。店頭は交通の便が良いハイウェイの傍を選んだとのことだ。
 
今のところ仮認可が下りたのは20社だけだが、ゆくゆくは最大限35の免許が出る見込み。去年の夏に免許申込みの受付が始まった時点では、181もの応募が殺到した。しかし、医療機関とみなされるマリワナ薬局は、専門知識、資金、運営のプランなどすべての面でかなりしっかりした枠組みがないと免許がおりない。免許申込みの手数料が第一次審査だけで1,500ドル。第二次審査まで進んだ場合には、3万ドル別途に払う必要がある。この料金は審査でふるい落とされても返却されない。(といっても、仮認可の下りた先は政治家とつながりのある会社が多かったというクレームがあり、現在審査の基準に疑問が寄せられている。)
 
ローエル市に開店を予定している会社の代表取締役は、イースタン・マウンテン・スポーツという名のしれたスポーツギア会社の元社長。役員達も錚々たる顔ぶれが並ぶ。そのうち何人かは、アリゾナとワシントンDCで既に開かれている医療マリワナ薬局の設置と経営に携わって来たという。彼らの推定は、ローエル市での推定販売量は最初の一年で154kg、約228万ドルの収益が見込まれている。かなり投資しても、元がすぐとれるという計算らしい。医療マリワナ薬局が設置されて数年になるコロラド州の税務局によると、州内にある全ての薬局の合計収益は、去年の7月1日から9月30日の3か月間で10.9億ドルに及んだという。
 
大麻の栽培・販売は連邦政府の法律の下では使用目的を問わず全て違法なので、経営にリスクはつきもの。いくら州のレベルで医療マリワナが許されていても、FBIなどに押し入れられてやむなく閉店に追い込まれる可能性がある。しかし、医療マリワナの合法化が広まるに従って、大麻そのものに対する味方が全国的にかわりつつあり、コロラド州では最近全国で初めて娯楽用マリワナの栽培・販売が合法化された。現在娯楽用マリワナ店の殆どは州都のデンバー市に集中しており、外に永く出来る客の列の映像がテレビ報道などで良く見かけられる。
 
アメリカでは1960年代にヒッピー族の間で娯楽用ドラッグとして多用され、取締りも厳しかったマリワナ。大麻の見直しは、文化の推移の反映と言えよう。



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