2014年1月16日木曜日

食を育てる「種図書館」





あと数週間すると、野菜や花の種のセールや、育て方の講習会などがあちこちで始まる。
気の早い話に聞こえるかも知れないが、地面が凍っているうちに苗育ちの準備を整えておこうという人は結構いる。雪積もるマサチューセッツにいると、その心意気に春の兆しを覚えてこっちまで嬉しくなる。
 
最近、こうした農園芸に興味のある人を惹きつけているのが、全国各地の図書館で広まっている「種の貸し出し」サービス。人参からトマトからズッキーニまで、様々な種類の野菜の種が無料で手に入る。ただ、これはあくまで「貸出し」。利用者は種を自宅に持って帰って野菜を育て、収穫後に種をとって保存する。それを図書館に持ち帰って「返却」するわけだ。
  
種の収穫というと難しそうに聞こえて怖気づく人もいるかもしれない。しかし、司書たちに言わせると心配無用。図書館では「種の取り方講座」を通年何回も開き、素人でもわかるように丁寧な指導をしているとのことだ。
 
先日、図書館のサービス多角化について書いたが、種貸し出しはそのひとつ。2010年にカリフォルニア州リッチモンド市の公立図書館で始まって以来、アイデアが各州あちこちの図書館に飛び火してきた。もともとの動機は、遺伝子組み換えをしていない種を守ること。大量生産のせいでスーパーに出回っている野菜は決まった品種に限られており、昔ながらの品種が消え失せてしまうのではないかという懸念が広がっている。このため、「シード(種)図書館」は店頭ではなかなか見かけない品種の種ばかりだ。
 
環境問題や食品に関する意識が高まる中、生鮮食料品はなるべく地元でとられたものを購入し、出来れば自分でも育ててみようという運動も高まっている。図書館はその社会的傾向に素早く反応し、生活に役立つサービスを提供しようとしているのだ。
 

図書目録がオンライン化されてから二十数年。倉庫に置きっぱなしになっていた目録カードケースを利用して種を提供しているのも、魅力のひとつだ。引き出しを開けるとインデックス・カードのかわりに種の入った小さな封筒がぎっしりと詰まっている。


 

マサチューセッツ州で最初に種貸し出しに乗り出したのは、ボストン郊外の小説『三人姉妹』の舞台で有名なコンコードという町の図書館。それは約一年前だったが、その後あっという間に近郊のグロトンという町から隣接したリトルトン町へと広がった。
 
一昔前は読みたい本を見つけるためには欠かせなかった目録カードケース。今、引き出しの中に新しい「わくわく」が詰まっている。




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