2014年1月13日月曜日

本の消えゆく図書館



図書館から本が消えて行く。
 
そんな時代を想定した図書館作りが、アメリカで拡まっている。


子供の頃は、図書館と言えばぎっしり並んだ本棚の間に身を埋めながら背表紙の分類番号を辿って本を探す場所。読みたいが一心に重たさも忘れて本を家に抱えて帰ったものだ。最近は、こうした光景は減りつつある。というのも、図書館利用者の多くがタブレットやスマホを使って電子書籍を「借り」ているからだ。
 
段取りは極めて簡単。地元の図書館のウェブサイトから貸出アプリを端末にダウンロードし、図書館使用者番号などを使ってログインするのがボストン郊外では一般的だ。読みたい本を検索したら、クリック。数十秒で本が端末に届く。空港で本を買う代わりに、ロビーに座りながらタブレットで自分の町の図書館から貸出する人や、バケーション先からダウンロードする利用者もいるらしい。
 
しかも、返却期限が来ると、本が自動的に端末から消える仕組みになっている。遅延ペナルティーの心配は全くないわけだ。

勿論、出版社は本の廻し読みをされると収益にならないため、図書館に電子書籍を売ることを毛嫌う。そのため、図書館で手に入る電子書籍のリストに限りはあるが、それでも近年選択の幅がかなり拡がってきた。 
 

アメリカの図書館は手に取って見れる本にあまり固執していない。
「新聞や本は、やっぱり指でめくる物。紙の匂いがしないと読んだ気がしない」と嘆く者も少なくないが、そういう人ですら電子ブックリーダーは持っている。図書館の司書は、これを時代の変化として受け入れており、グロトンという町の図書館では、支援者から募った助成金を使って購入したキンドルやヌック(アメリカで人気のある電子ブックリーダー)そのものを住民に貸し出して、「お試し体験」を推奨したりもしている。


アメリカの図書館の時代への適応性は今に始まったことではない。図書館は、そもそも「知識の共有と普及」のために存在する場所。グロトン公立共図書館の入り口に刻み込んである「Open to All 」という言葉は、正に図書館の起源となる概念だそうだ。


 
図書館は、「物を借りて返す場所」でもある。グロトン図書館のテクノロジーサービス司書によると、農家の多いマサチューセッツ州西部では、昔は図書館を通しての農具の貸し出しもあったそうだ。
(実は最近、野菜自家栽培のブームに応えて、種の「貸出」をする「シード(種)図書館」を館内に設けている図書館が近辺に現れ始めた。この話は、また後日紹介する。)
 
何の貸し出しが求められるか、また、どうやって知識を普及するか、利用者のニーズは時代によって変わるというわけだ。多くの図書館が音楽CDや映画DVDの貸し出しを永年してきたのも、このためだという。近年では、図書館を通してiPodなどに直接音楽をダウンロードすることも出来る。同じ理由で、アメリカはほぼどこの図書館でもWifiがある。今やインターネットなしで、知識の普及は成り立たないということだ。


 

いくつか本棚を取り払ってコンピュータを設置する図書館も少なくない。インターネットが調査に欠かせないというだけではなく、不況でレイオフされた労働者が家庭でインターネットをひく費用を節約せざるを得ず、図書館に来て履歴書をタイプしたりネットの求人案内を調べたりすることが多いからだ。「上手な履歴書の書き方」といった無料講座を専門家を招いて開く図書館も数多くある。

こうした理由のため、本がなくなったら図書館の必要性がなくなる、という懸念はないらしい。図書館の「出会い」の場所としての役割もますます求められていると、司書らは語る。小銭を残して自分でコーヒーをつぐ、カフェ・コーナーを設けている図書館も多い。


時代が変われば、図書館も変わる。未来を読み取る第一歩は、図書館に足を運んでみることかもしれない。



**********

Copyright © 2014 ボストン・マインドに掲載されている記事、写真、動画等の無断転載と使用を禁じます。
Copyright © 2014 ボストン・マインドand 佐藤広子. Unauthorized use and/or duplication of this material without express and written permission from this blog’s author and/or owner is strictly prohibited. Excerpts and links may be used, provided that full and clear credit is given to 佐藤広子 and ボストン・マインド(The Boston Mind) with appropriate and specific direction to the original content.  

0 件のコメント:

コメントを投稿